貴金属が加工中に硬くなる理由 ― 溶解・焼きなまし・硬化について
金や銀、プラチナなどの貴金属は、加工しているうちにだんだん硬くなります。これは「加工硬化」と呼ばれる現象で、金属の内部構造が変化することで起こります。制作者にとっては避けられない現象で、皆さんも制作中に経験していると思います。
これを理解しておくと効率的に作業を進めることができます。
1. 溶解と冷却
金属を地金から扱う場合、まずは溶解して地金の塊を作ることがありますね。
金・銀の溶解 → 急冷(冷水に落とすなど)
プラチナは徐冷
その後の制作では、「焼きなまし」で状態を整えることが基本です。
2. 焼きなまし(アニーリング)
地金を叩いたり引き延ばしたりしていくと、どんどん硬化が進み、やがて割れやすくなります。そこで必要なのが「焼きなまし」です。
金属を適切な温度まで加熱して、急冷することで内部のひずみが解消されます。
銀や金は「赤らむ」くらいが目安。
焼きなまし後は、再びやわらかく、加工しやすい状態に戻ります。
つまり「叩く・曲げる → 焼きなまし → 再加工」を繰り返して、形を整えていくのです。
3. 加工による硬化
金属は伸ばす・曲げる・叩く・ローラーに通すなどの機械的な力を受けることで内部の結晶構造が詰まり、硬くなっていきます。これが「加工硬化」です。
線材を細く引くとき
板材を薄く延ばすとき
彫金で金槌を使うとき
こうした工程で少しずつ硬化し、最終的には割れや欠けの原因になります。
4. 制作者の視点でのまとめ
強度を出したい部分 → あえて焼きなましをせずに加工硬化を利用する。例えば、手作りのパーツの曲げた部分や、鋳造後の細身のリングなど
柔らかく変形させたい部分 → 焼きなましで内部をリセットする。
溶解直後の地金 → 状態が安定していないので、必ず焼きなましをしてから使う。
貴金属は「火を入れることで柔らかく戻せる」「叩くと硬くなる」という性質を、意識的に使い分けることが大切です。
これを理解すると、無駄な労力や割れのリスクを減らしながら、仕上がりの強度もコントロールできるようになります。
焼きなましを忘れたまま線を引き続けると、途中でパキッと折れることがあります。これは加工硬化の典型的な失敗例です。